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反逆する武士
uematu tubasaです。
初回投稿日時:2020年10月9日(令和2年10月9日)
現代貨幣理論を理解しないビル・エモット
日本はいわゆるMMTの主要な活用者であると思います。
引用元:日本は「アジアのスイス」を目指せ、英誌エコノミスト元編集長に聞く
個人的には、MMTを「現代」と呼ぶのは誤解を招くと考えており、これは昔からある金融に関する理論です。
要はより多くの紙幣を印刷すれば、より多くの経済活動を生み出し、インフレを起こさず公共支出へ直接資金を供給できる。
これこそ日本銀行が行ってきたことといえます。
英誌「エコノミスト」元編集長のビルエモットが日本への提言をした記事がございます。
その中で現代貨幣理論について言及されておりました。
現代貨幣理論を知らずして、現代貨幣理論を語るという典型例でございます。
より多くの紙幣を印刷すれば、より多くの経済活動を生み出すというのはリフレ派の理論であり、現代貨幣理論ではございません。
現代貨幣理論では、中央銀行が民間金融機関から資産(債券など)を購入し、日銀当座預金を供給しても、民間金融機関から民間企業や個人への融資に影響を与えにくいと主張しています。
民間金融機関(主に民間銀行)の融資は、返済能力と返済意思がある借り手があってこそ生まれるものであり、お金があれば民間銀行はお金を融資するということではありません。
現金を銀行に預けなくても、銀行は民間企業や個人に対して、キーボードタッチで貨幣を創造できるということをご存知ないのでしょう。
現代貨幣理論の政策部分は就業保証プログラムである
「MMT」にしても「ベーシックインカム」にしても、大部分の人がまともに働いている社会であれば、補助的な制度として機能すると思われるが、誰もが「働かなくてもよい」というような誤解が生じると非常に危険な理論や制度になってしまう。
引用元:新型コロナウイルスの常識破壊【「MMT」を実践する世界】
誰も働かない社会というのは、需要(食欲)だけが有って供給(食物)の無いような社会だ。
そんな社会では必然的に悪性のインフレ(食料の高騰)になるので継続は不可能ということになる。
まず、現代貨幣理論は理論であって、制度ではございません。
誰もが働かなくてもよいという誤解が生じる余地はございません。
現代貨幣理論の政策として、就業保証プログラムというものがあり、日本政府や地方自治体が最後の雇い手として、仕事を提供し、完全雇用を達成するべきという主張がございます。
上記のような文章が出てくるということは現代貨幣理論をご存知ないようです。
まずは、働くことが前提であるという社会を実現するというのが、現代貨幣理論の世界観なのです。
就業保証プログラムとは何か
現代貨幣理論における「最後の雇い手」もしくは就業保障プログラム(Job Guarantee Program)をご紹介したいと思います。
「最後の雇い手」について、内藤敦之著『内生的貨幣供給理論の再構築』を参考文献とし、一部引用しつつ、説明させていただきます。
いわゆる「最後の雇用者」政策論は、有効需要論に基づく非常に積極的な財政政策の一環として、主張されている。
引用元文献:内藤敦之『内生的貨幣供給理論の再構築』pp282より
これは、雇用政策の一種であり、公共支出による財政政策ではなく、公共部門が失業者を雇用するというものであり、ほぼ同時にWray(1998)の「最後の雇用者(Employer of Last Report,ELR)」政策およびMitchell and Watts(2002)の「雇用保障(Job Guarantee,JG)」政策といった名称で提唱されている。
この「最後の雇い手」を我が国日本に適用するとなれば、日本政府もしくは地方自治体が働きたい人は誰でも雇う旨を宣言し、誰でも雇う際の賃金も公表し、最後の雇い手としての役割を果たすことになると思います。
雇い入れる際に、日本政府もしくは地方自治体が提示する賃金が実質的に最低賃金として機能します。
最低賃金を全国一律にして、さらに政治の力で引き上げることが可能になります。
不況期もしくは恐慌期において、失業者が増えた場合に雇用を維持することができ、好況期もしくは景気過熱期においては、政府及び地方自治体から民間企業へ労働力が移動します。
ある意味でのセーフティネット(安全網)として機能します。
これにはメリットがあり、失業による所得減少を最小限に抑制することができます。
失業手当や社会保障給付を最小限にすることができます。
失業に伴う、社会的費用を削減することができます。
失業に伴う社会的費用とは、人的資本の劣化(長期失業が招く労働力の腐食)、家族の崩壊、犯罪の増加、自殺の増加、医療費の増加などが含まれます。
この「最後の雇い手」は強制ではなく、任意であり、労働する能力と意志のある者が最後の雇い手の対象になります。
また、公的機関に雇用された労働者は解雇される可能性があり、すべての雇用問題を解決するような代物ではございません。
なぜこのような政策がMMT(現代貨幣理論)において論じられているかと申しますと、ヨーロッパやオーストラリアなどで高い失業率が継続していたからだそうです。
失業という問題が恒常的に発生する経済を分析するに当たり、就業を保障するような計画案が立案されたのではないかと推察します。
現代貨幣理論の支持者の中には、就業保証プログラムも含めて支持する人間もいれば、あまりにも現実離れしているので、就業保証プログラムだけは支持できないという人間もいます。
私は後者です。
※参考記事:就業保証プログラムを誠実に考えると、政策立案してみても課題だらけ
アジアのスイスになるべきという主張は同盟を否定することである
さて、上記のビル・エモットの引用元記事の中で、日本はアジアのスイスになるべきという主張をしているらしいです。
実は、日本がアジアのスイスになるべき論というのは、アジアの中の日本や国際社会の中の日本を語る上で、誰もが聞き及んだことだと思います。
結論から言えば、同盟否定の暴論としか言いようがありません。
スイスというのは永世中立国でございまして、誰の味方にもならない代わりに、誰の助けも不要と宣言している国家です。
これが国家の外交政策をどれほど狭めているのか理解しているのでしょうか。
現在の世界情勢を鑑みるに、我が国日本にとっても仮想敵国は中国であり、北朝鮮、韓国です。
であるならば、それらの国家群の背後を自国の味方に付けて、背後から軍事的脅威を与えつつ、包囲されているという精神的圧迫を与えつつ、自国にとって有利な安全保障環境を構築しなければなりません。
しかしながら、永世中立国ですと、生き残りのための同盟外交ができないということになるのです。
これがどれほど危険なことなのか、戦国時代、中国史、ヨーロッパ史を紐解けばご理解いただけるかと存じます。
アジアのスイスになるという幻想は捨て、アジアのバランサー(勢力均衡のための調整者)になるべきだと思います。
アジアという領域において、潜在覇権国家になりそうな国家を封じ込め、場合によっては様々な手段を使って潜在覇権国家の国力を削っていくということを積極的に行うイギリスのような国家になるべきです。
我が国日本にとって、有利な安全保障環境を積極的かつ能動的に構築することが我が国日本の生き残りのため、一番効率的なやり方なのです。
そのためには、お金を積極的に使うインテリジェンス活動や自国の軍事力を地道に強くしていくことが必要であり、その際必ず財政問題に激突します。
したがって、現代貨幣理論を熟知するのは政治を語る上で必要不可欠なのです。
政策論をする上で、変動相場制を採用し、自国通貨を保有する国家には財政的予算制約が無いという前提で話すのか否かは極めて重要だからです。
ある意味、国家の生死を決めるほどの論争だと考えております。
国家安全保障を重視する人間だからこそ、財政問題は熟知しなければなりませんし、お金のことを熟知しなければなりません。
以上です。