大変お世話になっております。
反逆する武士
uematu tubasaです。
初回投稿日時:2020年4月29日(令和2年4月29日)
MMT四天王が本を出版される
大論争を巻き起こした異色の経済理論が図解でよくわかる!
望月慎著『図解入門ビジネス最新MMT[現代貨幣理論]がよくわかる本』
MMTが日本で注目され始める以前から、MMT関連の論考をネット上で多数発表、活発な議論を行い、「MMT四天王」と称される著者の初の著書。
経済をより正確に診断できる正しい「レンズ」であるMMTの構造を解説し、批判に答え、誤解を解く!
●もくじ
第1章 MMTとは
第2章 租税貨幣論
第3章 機能的財政論
第4章 信用貨幣論・内生的貨幣供給理論
第5章 債務ヒエラルキー・債務ピラミッド
第6章 ストック・フロー一貫モデル
第7章 ジョブ・ギャランティ
第8章 MMTの開放経済(国際経済)分析
第9章 MMTによって防ぐことができる様々な誤り
第10章 MMTに関連する発展的な議論
本日は書評ということで、望月慎氏の『図解入門ビジネス最新MMT[現代貨幣理論]がよくわかる本』の書評をしたいと思っています。
実は、とある会合にて望月慎氏に直接お会いすることになりまして、編集さんが困るから買ってほしいというお話がございましたので、都内の書店で購入して読みました。
総評:★★★☆☆
総評としては、星3つでございます。
いろいろ参考になるところはありつつも、図がわかりにくいですし、一般人では理解できないだろうという箇所があまりにも多いため、星を2つ減らしました。
この本を知人や友人に推奨できるかと言われると、推奨はできないと言わざるを得ません。
手前味噌ではございますが、私の著作の方が基礎的なことを明示しているので、わかりやすいと思います。
本書は「現代貨幣理論」をある程度理解している中級者以上の人間がさらなる高みへ昇るための書籍でございまして、一般書ではございません。
バランスシートの説明がほぼ無し
現代貨幣理論はバランスシートなどの会計学的な知識を最低限理解しないと中々理解しにくい理論と言えます。
もちろん本書においてもバランスシートは明示されるのですが、バランスシートの簡単な説明すらありません。
これで、理解してほしいという方が無理なのではないかと。
作者が悪いというか編集さんが悪いと思います。
バランスシートを理解していること前提の書籍を入門書と位置付けるのはさすがに厳しいですよ。
コラムの内容は秀逸である
本書の素晴らしいところも挙げさせていただきますと、それは本編の間に記載されているコラムの内容が秀逸ということです。
以下、コラムの題名だけをピックアップします。
『MMT、リフレ派、積極財政派の違い』『貨幣の起源と歴史』『MMTの金利政策懐疑論』『銀行が預金集めする理由と、法定準備制度の実際』『現実の「無税国家」の分析~サウジアラビア、アラブ首長国連邦~』
『マネー・マネージャー資本主義と「ミンスキーの半世紀」』『グリーン・ニューディールとジョブ・ギャランティの”距離感”』『実際の通貨危機・財政危機に関するMMT的考察』『経済論議における誤謬のパターン』『では中央銀行は何をするのか?』
上記の内容は本当に勉強になりました。
本当にありがとうございます。
就業保証プログラムとベーシックインカムの比較
本書の中で、当然のことながら、現代貨幣理論の唯一の政策提言であるジョブ・ギャランティ・プログラム(就業保証プログラム)にも触れられております。
いわゆる「最後の雇い手」とも呼ばれる就業保証プログラムについて、内藤敦之著『内生的貨幣供給理論の再構築』を参考文献とし、一部引用しつつ、説明させていただきます。
いわゆる「最後の雇用者」政策論は、有効需要論に基づく非常に積極的な財政政策の一環として、主張されている。
引用元文献:内藤敦之『内生的貨幣供給理論の再構築』pp282より
これは、雇用政策の一種であり、公共支出による財政政策ではなく、公共部門が失業者を雇用するというものであり、ほぼ同時にWray(1998)の「最後の雇用者(Employer of Last Report,ELR)」政策およびMitchell and Watts(2002)の「雇用保障(Job Guarantee,JG)」政策といった名称で提唱されている。
この「最後の雇い手」を我が国日本に適用するとなれば、日本政府もしくは地方自治体が働きたい人は誰でも雇う旨を宣言し、誰でも雇う際の賃金も公表し、最後の雇い手としての役割を果たすことになると思います。
雇い入れる際に、日本政府もしくは地方自治体が提示する賃金が実質的に最低賃金として機能します。
最低賃金を全国一律にして、さらに政治の力で引き上げることが可能になります。
不況期もしくは恐慌期において、失業者が増えた場合に雇用を維持することができ、好況期もしくは景気過熱期においては、政府及び地方自治体から民間企業へ労働力が移動します。
ある意味でのセーフティネット(安全網)として機能します。
これにはメリットがあり、失業による所得減少を最小限に抑制することができます。
失業手当や社会保障給付を最小限にすることができます。
失業に伴う、社会的費用を削減することができます。
失業に伴う社会的費用とは、人的資本の劣化(長期失業が招く労働力の腐食)、家族の崩壊、犯罪の増加、自殺の増加、医療費の増加などが含まれます。
この「最後の雇い手」は強制ではなく、任意であり、労働する能力と意志のある者が最後の雇い手の対象になります。
一方で、就業保証プログラムに対して批判的な現代貨幣理論支持者も一定数存在し、ベーシックインカムを主張しています。
※正確に申し上げればユニバーサル・ベーシックインカムの実現を主張してます
ただ、現代貨幣理論の理論的支柱であるビル・ミッチェル教授はベーシックインカムに反対なのだそうです。
その理由を紹介している本書は素晴らしいと思いました。
以下にその理由を簡潔にまとめてみました。
ビル・ミッチェルのベーシックインカム反対理由
第一に、ベーシックインカムとは政府は大量失業に対して何もできないし、故に何の責任も持つ必要がないと認めることになるから。
第二に、ベーシックインカムには自動的な経済調整機能がないから。
第三に、ベーシックインカムはインフレを抑制するため失業を増やすという非倫理的な現状を受け入れた政策論だから。
第四に、ベーシックインカムは仕事によって獲得できる社会的アイデンティティや自尊心、社会的ネットワークを提供できないから。
私個人としては、ビル・ミッチェル教授の講演会にも参加していた人間ですし、ベーシックインカムに反対ということも存じておりましたが、その理由は理解できておりませんでした。
こういった細かいところにも言及してくださっている本書は素晴らしいと感じました。
以上です。