大変お世話になっております。
反逆する武士
uematu tubasaです。
初回投稿日時:2024年11月2日(令和6年11月2日)
本日は2024年9月2日に公表された法人企業統計を利用して、内部留保に関する誤解を解く記事です。
拙ブログにお越しの意識高い系人材には釈迦に説法だと思いますが、何卒よろしくお願い申し上げます。
利益剰余金とは現金・預金のことではない
昨今の補正予算や防衛力整備の関係で、財源確保の議論が噴出しております。
その議論の中で「内部留保に課税せよ」という意見が一部で根強いようです。
本日は内部留保(企業会計においては利益剰余金のこと)の現状をグラフで紹介します。
「利益剰余金」は全額、現金もしくは預金という形で民間企業が保有しているわけではありません。
青色の棒が「現金・預金」です。
オレンジ色の棒が「利益剰余金」です。
2023年度の結果を確認しましょう。
「現金・預金」は301兆円を超えたところですが、「利益剰余金」は約600兆円です。
あれれ?おかしいぞ?(CV:高山みなみ)
少なくとも299兆円の差がありますよ?
法人企業の全産業(金融保険を除く)において約600兆円のお金が現金・預金としてあるわけではありません。
利益剰余金をどのように解釈するべきなのか
ここから先は私なりに勉強した結果、利益剰余金をどのように捉えればいいのかという結論を申し上げたいと思います。
ご指摘いただき、誤っているとわかればすぐに訂正します。
利益剰余金は過去において、どれくらい「当期純利益」を積み上げてこれたのかを示す勘定項目です。
当期純利益とは損益計算書で表記される当期純利益のことであるとご理解ください。
参考URL:会計の基礎知識より
簡単に言えば、当期純利益=経常利益+特別利益-特別損失-法人税、住民税及び事業税-法人税等調整額となります。
※参考記事:年次別法人企業統計調査(令和5年度)より
したがって、利益剰余金とは企業の内部にどれくらいの現金・預金が貯め込まれているのかを示しているわけではありません。
どんなに民間企業の「利益剰余金」が多くても、貸借対照表の「現金・預金」が少ないことがあり得ます。
過去の「当期純利益」の分のお金を利用して設備投資などを行っている場合などに該当します。
なぜならば、設備投資する場合、まず手元の「現金・預金」を活用するからです。
つまり、内部留保=「現金・預金」とするのは間違いです。
ニュースで、内部留保に言及があれば、内部留保の定義を確認してから記事内容を理解しなければなりません。
利益剰余金を減らす手段とは何か
ちなみに、内部留保を減らす手段は、基本的に①純損失、②自己株取得、③減資の3つに止まる。
「内部留保を設備投資や賃上げに使うべき」との意見は少なくないが、通常、設備投資をしても内部留保は減らない。
また、赤字になるほど人件費を払わない限り、賃上げで内部留保を減少させることもできないのだ。
仮に、内部留保を「利益剰余金」と定義するのであれば、内部留保を減らす手段は3つございます。
1、純損失
2、自己株取得
3、減資
純損失に関しては企業が純利益ではなく、純損失を計上してしまったということですので、民間企業の経営継続が危ぶまれます。
自己株取得に関しては投資家が喜びます。
なぜならば、市場に供給される株式が減少するので株価が上昇する可能性が高いからです。
しかしながら、従業員には還元されないので、経世済民という観点からは望ましくありません。
減資に関しては、正直よくわからないので調べてみました。
減資とは何か
減資とは、資本金の額を減少させる手続きのこと。
株主が出してくれたお金である資本金の使い道がない(余剰金)といった場合には、資本金を決算書上、剰余金としたうえで、株主総会での「減資」の決議により、株主に払い戻したり、累積赤字がある場合に資本金を取り崩して欠損を補てんしたりすることができます。
欠損てん補をした場合、実際にお金が動くわけではなく、決算書上の数字が変わるだけですが、決算書の見栄えをよくすることができます。
株主への配当や累積赤字の補填などが「減資」になるようです。
お金の払い戻しがある場合は、株主の懐は温かくなります。
また、欠損補填をした場合は決算書の見栄えをよくすることができるので、経営者の保身にも役に立ちます
しかしながら、従業員の賃金は増えませんし、設備投資に資金を投じることにはなりません。
利益剰余金が減少するということは、以下のように言い換えることができると思います。
1、損失を計上して企業経営そのものが危うくなっている。
2、株主至上主義に毒された企業が増えてしまった。
3、減資するという資本主義経済にとっては後ろ向きな対応を企業が実施した。
いずれにせよ、国民経済にとっては好ましくないことが発生しているということです。
内部留保課税の経済的帰結
以上を踏まえて、内部留保課税に踏み切った場合にどのような結果になるのか予想してみましょう。
当然、経営者は利益剰余金を減少させようとします。
まず着手することとして、配当や自社株買いという株主還元です。
上場企業の株主にとっては喜ばしいことですが、株主至上主義的傾向が強まります。
従業員の賃金や待遇に反映されることはありません。
また、内部留保課税は二重課税となりますので、経団連から憲法違反ではないかと日本政府を訴えることになるでしょう。
私有財産制への侵害と言われてしまった場合、日本政府は敗訴濃厚です。
希望的観測よりも実務的な政策誘導へ
財務省は増加が続く内部留保について「構造的賃上げとして労働者に分配し、消費や投資も伸びる経済成長につなげる好循環が重要だ」(担当者)と強調する。
大和証券の鈴木雄大郎エコノミストは、日銀の統計などによると24年度は積極的な設備投資が予定されていると指摘。思い切った賃上げを行う企業が増えていることもあり、「(ため込んだ)現預金を使った賃上げを行うことも考えられる」と述べ、膨らんだ内部留保の活用に期待感を示した。
引用元:企業の内部留保、600兆円 12年連続で過去最高―投資や人件費、活用に課題・23年度末
あまりにも増税して緊縮財政を採用するものだから、消費意欲が減退してしまい、企業売上が伸び悩んでいる経済を作ってしまいました。
したがって、企業がお金を貯めこむのも当然と言えます。
賃金上昇につなげるためには、エコノミストや財務省の希望的観測ではなく、法人税増税と賃上げ減税と設備投資減税の合わせ技が合理的と言えます。
コストプッシュ・インフレで困っているときに増税というのは問題だと思われるかもしれません。
しかしながら、むしろ法人税の税率引き上げは効果が高いのです。
なぜならば、法人税増税により、節税意欲が高まり、賃上げ減税や設備投資減税という減税措置を利用して、労働者の給与増額と設備投資に前向きになる経営者が増えるからです。
それが生産性向上につながれば、コストプッシュ・インフレを鎮静化するのに役立ちます。
以上です。