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反逆する武士

地政学

『宇宙と安全保障』を読む。宇宙空間の地政学を学ぶ上での基礎文献か

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大変お世話になっております。
反逆する武士

uematu tubasaです。
初回投稿日時:2022年1月17日(令和4年1月17日)

最近、お金的な余裕ができまして、以前から欲しかった重厚長大な書籍を読み込んでいるのですが、まずは宇宙空間の地政学としての基礎文献をご紹介する記事になります。

具体論に入る前の前提知識を身に付けろ

宇宙はいかに軍事利用されてきたのか。
安定的な宇宙利用を維持するために、どのようなガバナンスのあり方が模索されてきたのか。
そして未来はどうなるのか。
宇宙と安全保障の関係を考察し、日本の宇宙政策への示唆を得る。

引用元: 福島 康仁著『宇宙と安全保障』 のAmazonページより

本書は、宇宙空間をどのように軍事利用してきたのか、宇宙空間を軍事関係者はどのように認識してきたのかという宇宙の地政学を語る上での基礎的かつ概略的なところを説明している書籍になります。

地政学という学問分野が貧弱な我が国日本において、ランドパワー論やシーパワー論に偏っていて、スペースパワー論(宇宙空間の地政学)に関して書かれている、または翻訳されている書籍は少ないと言えます。

また、地政学においては、陸や海などといった研究対象の現状を把握して、国家戦略としてどうするべきかという点を語る方も多くいらっしゃいますが、全く知識無しの人間がその主張を聞いたところで理解が難しいと思います。

宇宙空間を研究対象として、今まで人類は宇宙空間をどのように利用してきたのかという歴史やどのような考え方を起点として宇宙空間を認識してきたのかという宇宙空間に対する考え方の潮流をしっかりと説明しているので、地政学を学ぶ人や宇宙空間の地政学に興味のある方々にとっては基礎文献と言えましょう。

日本の宇宙政策の課題や宇宙政策に関する政策提言という点はかなり薄いと言えますので、手早く政策論を論じたい人間にとっては読んでも旨味が少ないです。

ただ、私のように軍事思想や地政学の根底にある考え方を身に付け、正しく現状を把握して事実に立脚した政策を提言したい人間にとっては最良の一冊だと言い切れます。

以下、参考になった記述をピックアップして、ご紹介したいと思います。

宇宙空間の軍事的価値に関する議論を分類している

とりわけラプトンの業績として評価されているのが、宇宙の軍事的価値をめぐる議論を4つの学派に分類したことである。
すなわち、①「聖域学派」(the sanctuary school)、②「残存性・脆弱学派」(the survivability / vulnerability school)、③「高地学派」(the high ground school)④「コントロール学派」(the control school)である。

引用元:『宇宙と安全保障』p14より

本書の中で、著者が参考にした文献が当然のこととして紹介されるわけなのですが、ディビット・ラプトンによって書かれた『宇宙戦論(On Space Warfare)』が紹介され、ラプトンの業績が紹介されます。

この宇宙の軍事的価値をめぐる議論を分類して、それらを詳細に紹介しているのが、本書の強みであり、それらのアップデートもなされて、著者独自の分類も紹介されております。

宇宙の軍事的価値をめぐる議論の分類に関する詳細に関しては、本書をご購入いただいた上でご理解いただくとして、本ブログ記事においては簡潔にご紹介だけに留めます。

1、聖域学派は、他の独立主権国家を偵察するだけの宇宙の軍事利用に留め、宇宙空間を戦場にはしないでおこうと主張します。

率直に申し上げて、どんだけお花畑なのかと言わざるを得ず、理解不能です。
人間が認識した空間、人間が創出した空間はすべて戦場になり得ます。

2、残存性・脆弱学派は、陸海空という既存の地政学的空間の軍事資産に比べて、宇宙空間の軍事資産は本質的に脆弱であるため、宇宙空間の軍事的価値は平時に限られると主張します。

衛星なんてミサイルで容易に破壊されるほど脆いですし、破壊された後の復旧も難しく、衛星が破壊された後のデブリが宇宙空間内で飛散したら、他の衛星の故障原因になりますので、なかなか説得力がございます。

3、高地学派は、宇宙空間の軍事的価値を最も重視し、宇宙を制する者が地球を制すると主張します。

高地を制するものが低地を制するという格言がありますが、それを重要視している学派ということになります。

陸上における山や丘を制している集団は谷や丘よりも低地に布陣している手段よりも有利に戦闘を行えますし、航空領域を制する者が世界を制するという「制空権」の考え方を極めている方々のようです。

詳細に関してはここでは言及しませんが、宇宙空間の軍事的価値を重要視するのは好感が持てますけど、かなりの過激派という印象です。

4、コントロール学派は、平時と有事の区別無く、宇宙空間の安定的な確保が不可欠であると主張します。

いわゆる「制宙権」を確立することが重要であるという方々であり「制海権」や「制空権」のように自国にとって利用できるような空間を維持し、他国の妨害を排することに主眼を置いています。

以上の4つがラプトンの分類になりますが、著者自身はこれらをアップデートするべきとのお考えです。
冷戦期の議論と多極化時代で技術レベルが飛躍的に上昇した現時点においては、議論の分類を同じくするというのは無理がございます。

著者は2と4の分類の代わりに「情報学派」と「抗たん性・コントロール学派」として紹介しています。

情報学派とは、地球上での戦闘を情報という観点から支援することが、宇宙空間の最も重要な軍事的価値であると考える学派です。

つまり、地球内部の戦闘に対する支援が宇宙空間の役割ということのようです。
特にミサイルの誘導のことを指しているのではないかと推察します。

巡航ミサイルでの精密爆撃や弾道ミサイル防衛においては、宇宙空間の衛星からの支援が欠かせません。

抗たん性・コントロール学派とは、宇宙空間での軍事資産は脆弱なので強靭化することで平時と有事関係なく軍事利用できるようにするべきだと主張する学派です。

宇宙空間での軍事資産(主に衛生)は脆弱であるという現状認識があり、平時でも有事でも軍事利用するため、複数の衛星を常時展開して、ミサイルでの衛星破壊でも宇宙空間の利用に支障が出ないようにバックアップ機能を強化しようという考えのようです。

1基の衛星を破壊されただけで宇宙空間を利用することができないという脆弱なシステムをどうにか安定的に稼働するよう対策を打つということなので、国土強靭化を理解している人間としては理解できます。

以上が、宇宙の軍事的価値をめぐる学派のご紹介でした。

私としては、現状では「情報学派」と「抗たん性・コントロール学派」の中間の位置の考えです。

地球内部での戦闘支援も重要ですし、衛星などの宇宙空間の軍事資産の脆弱性を克服するべきとの考えも支持しています。

宇宙を制する者が地球を制するという過激派にはなれません。

宇宙空間の軍事利用は衛星だけではない

宇宙利用を妨害する手段は多様である。
攻撃対象という観点で言えば、軌道上の衛星のみがターゲットとなるわけではない。
これまで何度か触れてきたとおり、衛星(宇宙セグメント)はそれ単独では機能し得ず、地上局やユーザー端末といった地球局(地上セグメント)、その間を結ぶアップリンクやダウンリンク、衛星間でも通信する場合はクロスリンク(リンクセグメント)が一体となって宇宙システムとして機能する。

引用元:『宇宙と安全保障』p94より

実は盲点でした。
宇宙空間の軍事利用は衛星だけで成り立つものではないということです。

例えば、GPS(グローバル・ポジショニング・システム)をスマホやカーナビで利用する場合を考えてみましょう。

位置情報を受信するということは衛星から発信された情報を地上の基地局で受診してから、スマホやカーナビという端末に伝達することで、人間は自分の位置情報を把握することができます。

したがって、GPSを破壊する場合、衛星を破壊することだけが手段では無く、スマホやカーナビを破壊することでもいいですし(現実的には相当難しいですが)地上の基地局を破壊することでも目的は達成できます。

こういった単純だけど盲点だった点に気づかせてくれたことも本書を読んで本当に良かった点です。

やはり宇宙空間の地政学を学ぶ上で、こういった基礎的知識が無いと政策立案は無理ですね。

仮に我が国日本が、衛星での位置情報を受信してミサイルを誘導することに重きを置くとするならば、リスクを高めることになりそうです。

地上局を巡航ミサイルで攻撃されたら、情報の中継が難しいですし、ジャミングされてしまったら、そもそも航空機やミサイル本体での情報受信が難しくなったり、誤情報を認識してしまうことにもなりかねません。

宇宙空間の軍事利用を推進しつつ、宇宙空間を頼らない方策も考えるべきでしょう。

衛星による対衛星攻撃を考慮すべし

レーザーやマイクロ波といった指向性エネルギー(directed energy)もASAT兵器として用いることが可能である。
その出力次第で一時的な機能麻痺から恒久的な損傷まで多様な影響を衛星に与えることができる。

引用元:『宇宙と安全保障』p98より

要するに、レーザーやマイクロ波を衛星に対して照射することで、衛星の機能麻痺や損傷を引き起こすことが可能ということです。

「目くらまし」や「目つぶし」とも言われ、衛星を構成する電子機器にダメージを与えて機能不全に追い込むということがあり得るのです。

高高度核爆発に伴う電磁パルスだけではなく、レーザーやマイクロ波も考慮しなければならないというのは難儀ですし、衛星による対衛星攻撃も理論上は可能ということですから、対衛星攻撃能力を保有しなければなりません。

以上です。

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