大変お世話になっております。
反逆する武士
uematu tubasaです。
初回投稿日時:2021年12月30日(令和3年12月31日)
理論を一般人にも啓蒙することの難しさを痛感している
「我こそが、本家MMT論者だ!」「我こそがMMTerであって、MMTを口走る奴の中には、MMTの“神髄”を理解せずに適当なことを言っている胡散臭い奴もいるんだ!」などと言っている話も耳に入ってくると、ますますMMTって胡散臭いよなぁと思うとしても、当たり前の話だと思います。
引用元:【藤井聡】『超入門MMT』(岸田内閣発足記念三部作・第三弾) ~現代貨幣理論はもはや、単なる「基礎教養」の一つである~
本日は藤井聡先生の『超入門MMT』を読んだ感想を備忘録として残したという体の記事になります。
本題に入る前に、現代貨幣理論(Modern Monetary Theory)に関する私なりの所感を申し上げたいと思います。
私個人が現代貨幣理論を本格的に勉強しましたのが、2019年半ばでございまして、面白い議論だったので、ラリー・ランダル・レイ(Larry Randall Wray)やステファニー・ケルトン(Stephanie Kelton)のようなMMT提唱者の書籍を読む前から、現代貨幣理論の基礎という書籍を自己出版してしまったほどです。
その後も現代貨幣理論に関する基礎的な文献などを読み漁りながら、勉強を継続しており、日本語でも基礎文献を読めるようになり、貨幣論に関する研究書が出版されたりと、理解を深めてきました。
その中でTwitterでも議論が巻き起こったのですが、やはり経済理論にありがちな派閥の争いや、現代貨幣理論の真贋論争などが発生し、私個人としては辟易しておりました。
私自身、某国立大学の経済学部卒の人間でございまして、そのような争いからは積極的に逃げたいと考えていました。
現代貨幣理論をどのように日本経済の再興のために活用できるのかという実務的かつ実践的な観点から理論を学ぶという姿勢であった私としては、本当に苦い思いを抱いておりました。
藤井聡先生も似たような思いだったのではないかと推察します。
そうでなければ、上記引用元記事のような文章になり得ません。
深くて専門的で分かりにくく、攻撃性を存分に発揮した自称MMTer(現代貨幣理論を支持する者)がSNSで暴れるのは無関係とは言えない立場の人間としてはげんなりしながら見ていましたよ。
敵は緊縮財政であり、消極財政であり、プライマリーバランス黒字化を絶対とする信仰であり、財政に関する無関心なのです。
敵を間違うべきではなく、まずは敵を倒すことを優先するべきだと思います。
素晴らしい理論を一般人にも浸透させることを優先するのであれば、まずは襟を正して丁寧に説明するところから始めることが重要です。
そしてそれが一番難しいと痛感しております。
※自慢じゃありませんが、私は比較的に頑張っていた方だと思いますよ('ω')
さて、本題に入りましょうか。
日本国民は日本国に対して「借り」があるので、納税を許容している
(前略)
引用元: 藤井聡著『超入門MMT』 p59-60より
ではなぜ国民は、税金を払う義務を、嫌々ながらも(税金を払うことが好きですきでたまらないなんて人はいないでしょう!)許容しているのでしょうか。
それは、国家はその領土に住む国民に対して、さまざまな「安全」を保証しており、インフラや基礎教育を提供し、衛生や治安や芸術や文化を提供している、ということを(普通の大人は皆)、「一応」は理解しているからです。
現代貨幣理論の根幹の一つである「租税貨幣論」に関して、藤井聡先生は平易な文章で説明しています。
お金の価値とは、まず国家が強制的に税金を国民から徴収することによって支えられています。
税金の支払いは日本国憲法にも定められている国民の義務であり、その義務を違法に逃れようとすれば、脱税になり、国家の警察権力を使って刑事罰を与えることができる体制が構築されています。
そのため、納税手段として定められている「日本円」には価値が生まれます。
納税しないと刑事罰が待っているわけですから、納税したいという必要性に駆られて「日本円」を欲し、それ故に「日本円」に価値があると国民に受け入れられるのです。
藤井聡先生はそこからさらに踏み込んだ議論を展開しています。
ではなぜ国民は納税の義務を許容しているのかと、なぜならば、国家に対して受けた御恩があり、言い換えるならば「借り」があるからとなります。
国民は国家に対して「借り(または負債)」があるのだから、納税という形で返済しているというのが、納税を許容することの理由として妥当なのではないかと藤井聡先生は説明しています。
私個人としては、税金が無いと貨幣に価値を与えられず、管理通貨制度を導入・維持することができないため、徴税しているという側面もあるのではないかと考えておりますが、現代貨幣理論をご存知でない一般人としては、藤井聡先生の主張の方が理解しやすいのではないかと。
個人的には素晴らしい入門的な説明の仕方だと感嘆しました。
インテリが現代貨幣理論を毛嫌いする理由を簡潔に説明
(前略)
引用元: 藤井聡著『超入門MMT』 p110より
しかも、彼等が信じている財政破綻論は、ある種「宗教的」な思い込みにすらなっていて、あらゆる理論的な議論を拒絶するようなものとなっているのです。
藤井聡先生は現代貨幣理論をインテリたちがなぜ毛嫌いするのかという点にも言及されています。
まず、ジェームズ・マギル・ブキャナンの『赤字財政の政治経済学ーケインズの政治的遺産』で展開される緊縮財政主義ともいえるイデオロギーがインテリたちに蔓延してしまったことが理由として挙げられます。
私もジェームズ・マギル・ブキャナンに関しては批判しておりましたので、納得です。
※参考記事:ジェームズ・M・ブキャナン『赤字の民主主義』を読む。購入価値なし
一般的な大衆は馬鹿である、その大衆が自分だけの利益を最大化させようとするために政治家に陳情することで財政拡大が行われるのは不道徳極まりないという考えがインテリに蔓延してしまったのです。
さらに言えば、インテリたちの左派の方々も現代貨幣理論に対して拒否反応を示します。
経済的に困窮している方々を救えるのだから、現代貨幣理論を支持するのが本当のリベラルであり、本当の左翼だと思うのですが、なぜなのでしょうか。
藤井聡先生は、とりわけ「左派」エリートたちは「国家権力」そのものに根本的な反感を持っていることがその理由であると説明されています。
租税貨幣論なんて、国家権力による強制的な徴税によって貨幣に価値が付与されるというお話でございますから、国家権力そのものに反感を持ってしまうサヨク様にとっては都合が悪いのです。
私は国家権力に関して肯定的評価もできれば、否定的な評価もできるという割と中立的な立場ですから、租税貨幣論を受け入れることができました。
一刻も早く、感情的にならず、事実関係を認め、反省して欲しいですね。
それができないからインテリなのかもしれませんが(笑)。
「就労・賃金保証」プログラムに関する具体例には言及されず
この「就労・賃金保証」プログラム(JGP)では、政府が「最後の雇い手」(Employer of Last Result、ELR)としての役割を担います。
引用元: 藤井聡著『超入門MMT』 p169より
つまり、民間では誰も雇ってくれないという人々「全員」を、政府が直接的あるいは間接的に雇いあげるわけです。
拙ブログやレイ(Wrey)の著作においては、就業保証プログラム(JGP)として呼称されておりますが、藤井聡先生は著書の中で「就労・賃金保証」プログラム(JGP)と呼称されているようです。
名称は異なれども、内容は同じです。
完全雇用を達成するため、政府が非自発的失業者を全員雇い入れることで、失業者を無くしつつ、インフレ対策として政府支出を減少して失業者を増やしてしまうということを防ぐ政策です。
現代貨幣理論から導ける、現代貨幣理論として内包する政策としては、 「就労・賃金保証」プログラム(JGP) が挙げられており、簡潔に説明されているようです。
私は 「就労・賃金保証」プログラム(JGP) に対して懐疑的な人間であり、インターネット上でも 「就労・賃金保証」プログラム(JGP) 批判のブログ記事がGoogleの上位に表示されるほどです。
※参考記事:就業保証プログラムを誠実に考えると、政策立案してみても課題だらけ
「就労・賃金保証」プログラム(JGP)の一番の弱点は、非自発的な失業者を全員雇い入れるのはいいとして、どのような仕事をさせるのかという点が明確になっておらず、藤井聡先生も言及していないことです。
制度を立案したり、提案する場合は、最低限の制度設計を提示しなければならないはずなのですが、具体的な仕事内容を例示することもできないようでは、政策というより現代貨幣理論支持者の願望という側面が強いのではないかと疑いたくなります。
もちろん現代貨幣理論の入門書という位置付けですし、やむを得ないところではございますが、せめて具体的な仕事内容だけでも言及して欲しかったというのが本音です。
仕事内容以外にも「就労・賃金保証」プログラム(JGP)に対する批判点は山ほどございますから、議論の余地は多いにあるという点も追記させていただきます。
総評:★★★★☆
最後になりますが、藤井聡著『超入門MMT』に関する総評です。
星4つとなります。
現代貨幣理論の入門書としての性質からして、大雑把な説明になるのは理解しておりましたが、さすがに大雑把過ぎるところがございますのと、「就労・賃金保証」プログラム(JGP)の仕事内容を定義できていないのは、マイナスポイントでした。
ただ、それを除けば素晴らしい啓蒙書であり、入門書と言い切れますし、現代貨幣理論を学ぶ上で、一番簡単な書籍と言われれば、藤井聡著『超入門MMT』を挙げることになると思います。
以上です。